クレームを減らす一言アドバイス

クレームはできれば避けたいもの。販売時には「使用上の注意」をひとこと添えるだけでも、お客様からのクレームを減らす効果があります。

セルフ式店舗での情報提供の難しさ

ドラッグストアセルフ店舗

ベテランの登録販売者でも「クレーム対応が好き」という人はまずいないでしょうが、特に新人にとっては怖く、緊張を強いられるものだと思います。クレームの対応についてはマニュアルを設けている企業も多いので、勤め先のルールに従うの基本です。

ただし、気をつけたいのが「すすめられて飲んだ薬が効かなかった」というような相談。これは「クレーム」ではありません。症状が改善せず、何度か継続し来店されてお客様もいます。困って相談に来られるわけですから、真摯に対応しましょう。

接客業をしていると、理不尽な言い掛かりや、身勝手とも思える要望を受けることもしばしばあります。しかし、「使用上の注意を一言添えて販売していたら、このクレームは起きなかったかもしれない」と思える事例も多々あり、コミュニュケーションや商品知識によってクレームを防げる場合もあるように感じます。ここでは、「使用上の注意」に関係するクレームについていくつか事例をご紹介したいと思います。

下痢止めの薬

下痢を止めたいからと、塩酸ロペラミドを配合した止瀉薬を購入したお客様がいました。自宅で開封して添付文書を読むと、「相談すること」の欄に「急性の激しい下痢または腹痛・腹部膨満・吐気等の症状を伴う下痢のある人(本剤で無理に下痢を止めるとかえって病気を悪化させることがあります。)」との記載。しかし、「店頭ではそんな注意喚起をしてくれなかった。リスクのあるのなら、なぜ買う時に情報提供しなかったのか」と立腹でした。実際、そのお客様は吐気をともなう激しい下痢を起こしており、「もし、知らずに飲んでいたら悪化したかもしれないじゃないか!」と主張されていました。

このケースで難しかったのは、セルフ式の店舗であったことです。セルフ式の店では、お客様自身で棚から市販薬を選び、レジで会計します。そのお客様も店頭でスタッフに相談することなく購入していたので、情報提供のチャンスがなかったともいえます。

しかし、「リスクがある薬なら、レジで精算する時にでも症状を確認するべきではないか」との指摘を受けました。土瀉薬の場合、薬で下痢を止めることで病状が悪化するケースがあるのは確かですから、お客様の指摘も一理あります。とはいえ、登録販売者以外のスタッフがレジを担当していた場合は、そうした声かけも難しい面があります。

「何かおこまりですか?」の一声やレジでの一言アドバイス

他にもこんなケースがあります。「温感湿布を剥がしてすぐにお風呂に入っていたら、患部に火傷のような灼熱感があった。その後もしばらくヒリヒリした痛みが続いてつらかった」⇒温感湿布は入浴の1時間ほど前に剥がすようにお伝えしなければなりません。

「イボ取りクリームを首にあるイボに塗ったら、赤くただれてしまった」⇒「首などの皮膚のやわらかい部分には塗らないように」という使用上の注意を、販売時に伝えておけば回避できたでしょう。

こうしたクレームは、店頭で適剤を選び、正しい使い方を伝えることができれば減ると思います。とはいえ、相談せずに購入されてしまうと対処しにくいのも事実。ですから、レジでの一言アドバイスや簡単な質問で、少しでも販売に関わることが大事です。長時間、薬棚の前で商品を眺めている人や、商品選びに迷っているような人には、「何かお困りですか?」などと一声かけるようにするといいでしょう。

解熱剤

また、ごく稀なけーすですが、商品をおすすめした際に、「この薬が効かなかったら、あなたが責任を取ってね」と言われたことや、「飲んだ薬が効かなかったから返品したい」と言われたこともありました。このようなケースは安易に対応できませんので、店長の指示や店舗のマニュアルに従いましょう。販売する時に、効き目を保証するような言い方をしないことや、「副作用はありません」などと言わないのは当然ですが、断定的な言い方はトラブルの原因になりやすいので、対応時の言葉遣いにも注意しましょう。

また、これもごく稀にではりあますが、「購入した商品の味がおかしい」「成分が沈殿している(液剤など)」「いつもと色や味が違う」など、商品の品質に関する問い合わせやクレームが届くこともあります。商品の性質上、正常な範囲なのかどうかは店頭では判断が難しいため、メーカーに報告をして対応してもらうことが多くなります。こちらも店長の指示やマニュアルに従って対応しましょう。

持病のある人にはどう対応する?

医療用医薬品を服用している人からの相談は、ケースごとに対応が異なるので、接客を重ねて知識を増やしていくことが必要です。

会社のマニュアルを確認し、受診勧奨ならきちんと説明する

マニュアルを確認する

持病のある人の対応も、新人登録販売者が苦手とするところです。持病といってもいろいろですが、高血圧や糖尿病などの医薬用医薬品を服用している人が、風邪薬を求めてドラッグストアにやって来ることはよくあります。基本的に、医師の治療を受けている人が体調を崩した時は、かかりつけ医を受診するのがよいのですが、「市販薬も病院の薬も同じ薬」と考えて、ドラッグストアに相談に来る人も多いのです。

企業の中には、対応のマニュアルを用意しているケースもあります。「持病のある人へは販売しない」というルールの会社もあるので、勤め先の規定を確認しておきましょう。特にルールがない会社では、登録販売者がその都度判断して対応することになります。

持病がある場合は必ず受診勧奨しなければいけいない、というわけではありません。たとえば、降圧薬を服用している人が風邪薬を買い求めた場合などは、いくつか質問した上で、その人の状態によっては市販薬で対応できることもあります。一つの例としてあげると、次の4つの質問をし、大丈夫だと判断できた場合は販売する。

  • 処方されている薬の名称
  • 普段の血圧の数値
  • 普段から風邪をひいた時には市販薬をよく服用しているのか?
  • 市販の風邪薬で体調が悪くなったことがあるか?

しかし、こうした対応をするには、まず持病の病態(この場合は血圧)についてよく知り、病院ではどのような治療や投薬が行われているのかなどを学習する必要があります(登録販売者による医療用医薬品との相互作用についての情報提供は、法的に難しいので行いません。自身が判断するために知識として持っておくということです)。その上で、登録販売者自身の責任において販売を判断するので、新人にとっては非常にハードルが高いです。商品の「添付文書」を読むと、持病のある人でも服用可能かどうかがある程度確認できるので、そうした商品をリストアップしておき、自身を持って判断できない場合は受診勧奨としましょう。薬剤師が常駐している店舗なら、持病のある人への対応を代わってもらうのがベストです。

また、薬と薬の相互作用の他にも、風邪などで体調を崩すことで持病が悪化するケースもあります。

糖尿病の発症リスク

たとえば、糖尿病の治療薬を服用中の人が風邪をひいて食事が摂れないと、血糖値が下がりすぎて低血糖に陥ることがあり、非常に危険です。こうしたリスクを患者さん本人が知らないことも多いため、店頭での注意喚起や情報提供は重要です。過去に市販薬の服用で持病が悪化したことがある人、処方されている薬が数種類ある人、合併症を超えている人などはリスクが高いですから、受診勧奨してください。

その際は、「自信がなくて売れないので医療機関を受診してください」ではなく、お客様が納得できる説明をしましょう。

商品の使い方や養生方法も説明しよう。

間違った医薬品の使い方、効果が得にくい使い方をしている人、不養生が治癒を妨げている人へ、正しい知識を伝えるのも登録販売者の仕事です。

薬の正しい飲み方、使い方を知らない人は多い

医薬品の正しい使い方や服用の仕方を消費者が知らないことがあります。市販薬でも医療用医薬品でも、自分が飲んでいる薬を安易に他人に譲ったり、大人用の薬を子どもに飲ませたりといった、危険な行為を見聞きしたことがある人も多いでしょう。日本では、薬に関する教育がほとんどされておらず、医薬品とサプリメントの違いを知らない消費者も少なくありません。

さまざまなお薬

お客様が購入する薬を決定したら、その使い方(飲み方)や保管方法、家庭でのケア(養生法)も伝えましょう。

内服薬の場合は、用法・用量が商品に記載されているので比較的わかりやすいと思いますが、皮膚疾患用の塗り薬や湿布薬などの外用薬は、家庭での使用法に戸惑うこともあります。いつ塗るのか、1日に何回塗るのか、どれくらいの範囲に塗り広げるのかなど、「塗り方」を間違えると商品の効果を十分に発揮できません。

また、保管の仕方も品質に影響を与えることがあります。商品に記載されている使用期限は未開封の状態でのものなので、開封後の保管法や使用期限なども情報提供したいところです。

大人用の薬は子どもの手の届かないところに保管することも基本ですが、子どもの誤飲事故の上位に「医薬品」があること考えると、意外に徹底されていないのかもしれません。お菓子のグミのような色鮮やかなソフトカプセルや、ラムネ味のチュアブル錠など、子どもがつい口に入れたくなるような市販薬もあるので、保管には十分気をつけるよう販売時に行こと添えることが大事です。

赤ちゃんに薬を飲ませる

それから、昔と今で常識とされる対処法が異なるケースについても、店頭での説明が有効です。たとえば、かつて傷口は消毒するものでしたが、湿潤療法(モイストヒーリング)では治癒を遅らせる原因になるため消毒薬を使用しないのが今の常識です。近ごろは、火傷や傷の湿潤療法商品が多く市販されており、一般消費者に認知されつつありますが、高齢の人にはなじみのない新しいケア方法かもしれません。湿潤療法が適さないケースもありますし、湿潤療法の正しい行い方はまだまだ消費者に浸透していないため、新人登録販売者にとっても対応が難しい事例になります。

皮膚疾患や外傷では、ガーゼを貼った方がいいのか、入浴時に患部を石鹸で洗ってもいいのか・・・・・など細かいアドバイスがあるかどうかで、ケアの効果も変わってきます。接客中にケアの仕方について聞かれることも多いので、代表的な皮膚疾患の症状とともに、家庭でのケア方法学習しておきましょう。

ちなみに、すり傷や切り傷などの外傷は、薬とともにガーゼや絆創膏、サージカルテープなどを一緒に購入されるケースが多いです。こうした商品も種類が非常に多く、それぞれの特徴の違い(通気性がある、水を通さない、かぶれにくい素材など)を把握しておく必要があります。

根本的な養生法を伝えることも大事

「一発で風邪が治る薬をくれ!」などと言われて、店頭で困った経験のある登録販売者は多いと思います。薬で病気が治ると考えている人は多いですが、食事や生活習慣の乱れ、ストレスや疲労など、病気の原因は普段の生活の中にあり、治癒には生活の見直しが不可欠です。忙しくて仕事を休めないなど、人それぞれの事情はあると思いますが、薬は魔法ではありません。

また、喫煙や飲酒は薬の効果を得にくくするため、風邪をひいている間はたばこやお酒をやめる(減らす)ようアドバイスすることも大事です。ただし、こういったアドバイスは、しばしばお客様に嫌がられます。ですから命令口調ではなく、「お願いします。風邪が治るまでの間、少しだけたばこをひかえてみていただけませんか?」などと依頼する形で話すと、比較的素直に応じてもらえます。くどくどと説得するのではなく、短くサラッとお話しするのがコツです。

養生なくして健康なし、薬は単なるサポート役に過ぎません。体力のある若い人は多少無理をしても治りが早いかもしれませんが、病後・産後の人や小児・高齢者などは治りが遅い傾向がありますから、飲む人の年齢や状況に応じた養生法をアドバイスしましょう。

種類が多い薬はどう選べばいいか。その2

用途から商品を絞り込む場合

くすりの種類

★使う人の年齢★

  • お客様本人だけ使う ⇒ ご本人の症状に合った商品
  • 子どもなど家族も一緒に使う ⇒ 子供も服用できるか成分、小粒で飲みやすい、フルーツ味など

★服用のタイミング★

  • 今すぐ ⇒ 即効性を期待するならシロップ剤や液剤、顆粒など
  • 常備薬として購入 ⇒ 顆粒なら分包タイプ、錠剤ならPTPシート

★常備薬の場合★

  • 家庭用 ⇒ 子供がいる場合はファミリー向けの商品
  • 職場用 ⇒ 分包タイプ。不特定多数の人が服用するため、アレルギーなどのリスクが少ない成分(アセトアミノフェンなど)

★携帯・保管の方法★

  • 外出先に持ち歩いて服用 ⇒ 分包タイプ
  • 家で服用 ⇒ 瓶入りタイプ(開封する時長く持たないため、使いきれる錠数の商品)

予算から商品を絞り込む場合

錠剤やカプセルのくすり

お薬を購入する際は、「価格」も重要なポイントになります。実際に「1000円以内で収めたい」などど、お客様が予算をあらかじめ伝えてくださるケースもあります。

特に栄養ドリンク剤は100円未満の商品から、3000円を超える商品まで価格の幅が広いため、1000円前後、2000円前後など、大まかでも結構ですから、「ご希望の価格帯はございますか?」と最初に確認してみても良いでしょう。

店舗のドリンクストッカーでは、「最も安い価格帯が最下段、高価格帯が上段(又はお客様目線の位置)などと値段別に陳列されることが多いので、その点でも予算別の絞り込みがしやすいかもしれません。

また、お客様が低価格帯の商品をご希望の場合でも、成分の配合量など商品の違いをしっかり説明できると、少し高い価格帯の商品を提案して購入につながるケースもあるので参考にしましょう。

種類が多い薬はどう選べばいいか。

風邪薬や胃腸薬など、多種多様な商品が出ているカテゴリーでは、年齢・用途・価格など効能以外の視点を加えると絞りやすくなる。

来店されたお客さんに「その商品をおすすめした理由」を説明できるようにしておく。

お薬を説明する

風邪薬や解熱鎮痛剤、胃腸薬や皮膚病薬などは、種類が多く、購入時に「どれがいいのか?」と相談されることの多いカテゴリーです。テレビCMなどで頻繁に宣伝されている薬を「〇〇〇〇はありますか?」と指名買いする人も少なくありません。

お客様が相談してくるのは、症状がつらくて困っている時や、自分の症状に合った商品がわからないときです。自分が経験したことのある症状だと対応しやすいので、風邪の症状などの相談では新人登録販売者も聴き取りに苦労することは少ないと思います。あらかじめ相談の多い症状に適した商品を分類して、接客フローに従って症状の聴き取りから商品選択へ進めば、スムーズに対応できるでしょう。

しかし、商品が多すぎる場合、やはりお客様は迷います。そのため、登録販売者はある程度限定して商品を提案することが大事な事なのですが、同時に「これだけたくさんの中から、どうしてこの薬を選んですすめたのか?」納得できるように説明することも必要です。

「この商品とこの商品は、何が違うのか?」と聞かれることもよくあります。お客様の多くが一番気にするのは効き目の差です。その差をわかりやすく説明できるように、特徴を簡潔に説明する文章を商品ごとに考えておき、質問されたらすぐに答えられるように準備しておくのが良いでしょう。

全部を一度に覚えるのは大変なので、店舗で売り上げの高い人気の商品から始めましょう。たとえば、風邪薬はとても種類が多いですが、対応する回数も多いカテゴリーなので、マスターするのにそれほど時間はかからないはずです。

商品選択に困ったら効能以外の希望を質問してみる

お客様に提案する商品を選ぶ時は、緩和したい症状の他に、使う人の年齢や用途も確認すると、自然に商品が絞られてきます。子どもも含めた家族で使用する薬なのか、今すぐ必要なのか、常備薬として買うのか。とにかく早く効くもの、眠くならないも、長時間効くものといったニーズ、味(子ども向けの薬など)や使用感(目薬など)、剤型(顆粒より錠剤がいいなど)の希望もあります。

また、価格もお客様にとっては大事な要素です。例えば、価格の幅が広い栄養ドリンク剤や目薬などは「ご希望の価格帯はございますか?」と最初に「予算」をお聞きしてみましょう。

それでも商品を絞り込めない時は「いつもよく飲まれている商品はございますか?」などと聞いてみるのも良い方法です。特に風邪薬や解熱鎮痛薬では、お気に入りの商品がある人が結構います。市販薬の主な役割は対症療法ですから、症状を抑える効果があるかどうかが最大の選択ポイントです。薬を飲んでも症状に変化がなければ「効いた」という実感は得られません。逆に、過去に「効いた」経験がある商品には、大きな信頼を抱くものだからです。

一口に風邪といっても症状は毎回同じではなく、前回使った商品がまた効く保証はないのですが「特にこの商品が適している」というものがない場合は、本人が信頼する商品を選んでいただくのもいいでしょう。

胃薬

胃腸薬も、症状別に様々な商品があるカテゴリーです。例えば「空腹時の胃痛」や「食後の胃もたれ」など明確な症状なら商品も選びやすいのですが「何となく食欲が出ない・・・・・」など、漠然とした症状の場合や、逆に症状が多すぎる場合は困ってしまいます。そんな時は、複数の症状に対応できる総合胃腸薬をすすめることができるので、「判断に迷った時はこの商品」というように、自分なりの最終アイテムを決めておくのも、新人のうちは有効です。

 

プライベート商品はどうすすめたらいいか?

PB(プライベート)商品や推売品への考え方は会社ごとに違いますが、「売る」ために症状や商品についての知識が必要であることは変わりません。

 

プライベート商品

PB商品の押し売りは時代遅れ?

PB(プライベートブランド)商品などの推売品を優先的に売ることが求められる企業で働く登録販売者も多いでしょう。推売品の売り方は企業によってスタンスが違いますが、推売品をたくさん売る人が高く評価される、という会社は確かにあります。

最近は、厳しいノルマを課す会社は減っているようですが、「レジでPB商品にスイッチする(同様の効果のあるPB商品をすすめる)ように」と指導される場合もあります。このタイプのドラッグストアに勤務された登録販売者も多いと思いますが、お客様から「なぜ、この店の店員はみんな同じ商品ばかりすすめるの?」とよく聞きます。一方でPB商品があっても推売するルールやノルマを設けていない企業もあります。

スーパーやホームセンター、ディスカウントストアなどは、医薬品のPB商品がない企業の方が多いかもしれません。推売品やPB商品がないと自分の判断で薬を提案できるため、登録販売者にとっては働きやすい環境といえます。

ホームセンター

その反面、企業が「積極的に医薬品で利益を上げようとする方針ではない」ともいえます。そうした店舗では、医薬品売り場以外での作業が多くなる傾向があり、薬の接客場面が少ない可能性もあります。過剰なノルマがあると、お客様の症状にかかわらず売ることに必死になってしまう傾向がありますが、押し売りになっては本末転倒。

会社の利益に貢献することも必要ですが、市販薬の専門家である登録販売者としては、お客様の健康や安全を守ることが大事です。いずれにしても、「何が何でも推売品を売りなさい」という手法は、もう時代遅れであることは言うまでもありません。

PB商品は接客スキルを磨ける商品でもある

購入を決めるのはあくまでもお客様です。PB商品も他の商品と同じように効果や特徴を説明して、お客様自身に選んでいただくのが登録販売者のスタンスでしょう。推売品のみを提示するのと、他の商品も一緒に紹介して選んでもらうのとでは、買う側の印象がだいぶ違います。

また、メジャーな商品と比べて認知度が低いPB商品や推売品は、商品の良さをうまく説明できないとなかなか購入につながりません。 自社商品の知識はもちろん、それがメジャーな商品とどこが同じで、どこが違うのかも把握し、アピールすることが必要です。そういう意味では、PB商品は接客スキルを磨ける商品ともいえます

やる気のある登録販売者

おすすめしたい商品を、お客様に受け入れてもらえないことも時々あります。お気に入りの商品やブランドがある人もいますし、友人や家族からの口コミやメディアの評判などを信頼している人もいます。そもそも店員にあれこれ説明されることを好まず、「自分で決めたい」と考える人もいます。

購入しようとする商品が、本人の症状や体質に明らかに合っていなければ、きちんと情報提供をして、正しい商品選択を手伝う必要がありますが、そうでない場合は介入せずに見守ってもよいでしょう。

こちらの「売りたい」という気持ちが見えすぎると、商品は売れないものです。「売らなければ!」と気負わずに、あくまでも選択肢の1つとして推売品を紹介した方が購入の確立が上がる場合もあります。

利益が出なければ商売は成り立ちませんし、その利益が自分たちのお給料となることを考えれば、推売品をすすめることは悪いことではありません。また、推売品にはナショナルブランドの商品とほぼ同じ成分なのに価格が安いなど、消費者に有益な商品も多いです。推売品がそのお客様の症状や要望に合っていれば、自信を持ってすすめましょう。

 

情報提供や商品PRは工夫次第

セルフ式店舗が増え、お客様と相対して接客する機会が減る中、ミニチラシやPOPを活用した情報提供は高まっています。

店員に相談しにくい病気・症状もある

便秘で悩む女性

病気や不調の中には、人に知られたくないものもあります。たとえば痔や便秘、尿漏れなどは、「人目のある店頭でスタッフに質問しにくい」「商品に関するアドバイスを受ける時も他の人に聞こえないようにしてほしい」とお客様が感じていることが少なくありません。売り場面積が広く、相談スペースを確保できる店舗もありますが、「話すのが恥ずかしい」という思いから、セルフ式の店で相談も何もせず購入してしまいたいと考える人もいます。

とはいえ、浣腸や坐剤、注入軟膏といった商品は、初めての場合、使い方がよくわからないことが多いです。また、正しく使えていないため本来の効果が得られないことが多いです。また、正しく使えていないために本来の効果が得られなかったり、痛い思いをしたりすることもあります。

私の知っている登録販売者の場合は、使用手順などをわかりやすく書いた小さなチラシ(はがきサイズくらい)をあらかじめ用意しておき、接客時や会計時に商品と一緒に渡すようにしていました。もちろん、口頭で説明することもありますが、近くに他のお客様がいたり、レジが混雑していたりすると詳しくお伝えできない場合があります。また、口頭のみだと、お客様が実際に使用する時に、説明内容を忘れてしまう可能性もあります。

ミニチラシは、乳児や小児の服薬のコツを説明したものも効果的です。たとえば母親が来店した場合は口頭での説明でもスムーズに理解してもらえますが、他の家族などが代理で買いに来た時にお渡しすると喜ばれます。

全ての商品につける必要はありませんが、今までの経験では、使い方のアドバイスや注意喚起をわかりやすくまとめたチラシはおおむね好評でした。ちょっとしたことですが、リピーターのお客様を増やすことにもつながるのではないでしょうか。

ミニチラシでの情報提供の例

《乳幼児への粉薬の飲ませ方》

赤ちゃんに薬を飲ませる

  • 薬をミルクに混ぜて飲ませないでください(味がまずくなってミルク嫌いになることもあります)。
  • お薬を服薬用ゼリーや、少量のチョコアイス、チョコレートシロップに混ぜて飲ませると、苦みを感じにくくなります(果物のジュースやスポーツ飲料、ヨーグルトなどは苦みを強調します)。
  • 月齢の低い赤ちゃんは、ごく少量(小さじ半分)くらいのチョコシロップにお薬を混ぜてペースト状にして、授乳直前に頬の内側に塗ってあげるとよいです。

情報提供をする時の注意点

医薬品は正しい使い方をしてこそ効果があるものです。特に副作用や使用上の注意はわかりやすくアドバイスしましょう。

副作用や使用上の注意・制限は「理由」とともに説明する

登録販売者が行う「情報提供」とは、効能や副作用等を含めた商品の特徴、使用上の注意、養生法などを説明することです。

飲み方を紹介する登録販売者

お客様から問い合わせがあった時はもちろん、特に質問がない場合でも説明するのが原則とされています。医薬品の販売では、メリットだけでなくデメリットも伝えないといけません。推売品やPB商品を売る場合も効能だけを説明せずに、副作用や薬を使用しても効果がなかった場合の対処法、長期連用のリスクなどもきちんと伝えるのが基本です。

新人の中には「何かあったら・・・・・」という不安からリスクばかりを強調してしまう人もいますが、商品知識が身についてくると、効能もリスクも過不足なく伝えられるようになるでしょう。また、使用感や飲みすぎなどに関する第三者の意見も、購入の参考になります。おすすめする商品が自分も使用したことのあるものなら率直な感想を伝えたり、他のお客様からの評判などを紹介したりするのもよいでしょう。そうした話題によって、お客様との会話がしやすくなることもあります。

専門家として情報を提供する際には、その「理由」もしっかり説明できるようにしておくことも大事です。15歳未満は服用できない、授乳中の人は服用を避けるなど、使用上の注意で制限がある商品もありますが、なぜ制限されるのかについても理解しておきましょう。ここでも知識の丸暗記ではなく理解が求められます。

そして、登録販売者は病名を診断するような行為や発言をしてはいけないという点も肝に銘じておくことが必要です。症状から判断して商品を選択する過程でいろいろな病名が頭に浮かびますが、それは推測でしかなく、医師の判断がなければ病名の確定はできません。受診をすすめる場合、お客様にある程度具体的に説明しないとその必要性を納得してもらえないことも多いので、伝え方の工夫も必要です。

また、情報提供を行う機会が多い内容は手帳やノートに整理しておくとよいでしょう。とくに、お客様から「購入時に教えてほしかった」などのクレームがあったものは、スタッフ全員で共有しておくと次回以降のクレーム防止になりますのでしっかりと情報の整理を行うことも必要です。

登録販売者としてトリアージと受診勧奨はどうするか?

登録販売者が、接客において避けては通れないトリアージと受診勧奨。自身を持って判断するためには、病態や治療に関する知識が欠かせません。

「いつもと違う感じ」が有効な判断材料料に

災害・事故や救急医療などの現場で、重症度によって治療の順番を決めることを意味する「トリアージ」という言葉を聞いたことがあるかと思います。登録販売者の仕事でも、来店客が訴える症状が、市販薬で対応可能かどうかを判断するトリアージを行います。

まれですが、市販薬で対応できないような重い症状の人が来店することは実際にあります。原因不明の頭痛や腹痛、しびれ、高熱、下痢、嘔吐などは判断が難しく、時には命に関わることもあるため、店頭では慎重な対応が求められます。

薬の説明をする登録販売者

重篤な状態かどうかを判断するための例として「いつもと違う感じはありませんか?」という質問です。いつもの風邪と症状が違う。いつもより治りが遅く薬が効かないなど、重篤な事例では本人が直観的に違和感を覚えることが多いからです。

トリアージの結果、市販薬で対応できるケースなら比較的スムーズですが、難しいのは市販薬では対応できない症状や、医師の治療が必要な事例です。

その場合、受診勧奨をしますが、素直に応じてもらえないケースが少なくありません。急性の異変は本人もつらいため応じてもらいやすいですが、日常生活に大きな支障が出ていない症状では、市販薬による対応を希望される場合が多いのです。「病院へ行けないからここへ来たんじゃないか!」と怒る人もいて、納得してもらえないこともあります。

そんな時は、なぜ市販薬では対応できないのか、市販薬を使用し続けることによるリスク、病院を受診するとどんな治療や投薬がなされて、どんな効果が得られるのか、(あくまでも一般論として)などを説明して、受診のメリットを伝えます。明確な理由がないと、「受診する」という行動につながりにくいのです。

「自分ならどんな説明をされたら納得するか?」と、相手の立場になって考えてみましょう。医療用医薬品については登録販売者の試験勉強でも学びませんし、店頭で情報提供することもできません。しかし、病院で行われる治療法や治療薬についてもある程度知識がないと、受診勧奨する「ライン」がわからないのも事実です。店頭での相談が多い事例については、知っておいた方が良いでしょう。

正しい接客の手順とコミュニケーション能力

接客が不安という人は、必要な段階をふんでいない可能性があります。症状の把握から商品選び、使用のアドバイスまでの流れを確認しましょう。

店頭での接客フローを組み立てよう

登録販売者は、医師のように病気の診断はできませんが、皮膚炎や火傷の傷を店頭で見せられて「これに効く薬をください」などとお客様に言われることはよくあります。登録販売者としては、その権限を越えない範囲で、症状に適した商品を選び、情報提供を行なわなければなりません。

薬の確認をする登録販売者

新人時代は、接客のたびに緊張することでしょう。そんな時、接客フローが身についていると、お客様の話を聴くことに意識を集中できます。接客フローとは、「症状の聴き取り」から「商品の選択・提案」までの流れです。

医薬品を求めて来店する人は、何らかの症状を緩和・解消するのが目的ですから、まず具体的な症状を聴くことから接客が始まります。次に、聴き取った症状から病態を判断し、剤型や作用についての要望(錠剤がいい、眠くなりにくいものがいいなど)やアレルギーの有無などをふまえて、適した商品を選択・提案し、お客様に判断してもらいます。さらに、その薬の使い方や養生法のアドバイスも行います。

この過程で最も重要なのが「症状の聴き取り」ですが、病態の判断に必要な情報を不足なく伝えてくれるお客様ばかりではありません。そのため、登録販売者から適切な質問をしていく必要があります。新人の頃は「何をどのように質問すればよいのか?」と、頭を悩ませることでしょう。先輩の登録販売者の対応を見て学んだり、自身の接客経験を積み重ねることでしか、スキルアップできない部分もあります。商品や病態に関する知識量も大きく影響するので、コツコツ勉強し続けることも必要です。

さまざま薬の種類

また、短いやり取りの中で、適切な答えを導き出すためには、コミュニケーション能力も必須です。挨拶や言葉遣い、笑顔など、接客業として求められる基本的なスキルも身につけましょう。